●エクメーネ
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ラッチェルの命名になるもので,彼は人類の生活空間をエクメーネと呼び,それ以外の領域をアネクメーネと名づけた。人類の生活空間とは人間の永続的な居住生活のできる空間であり,一時的ないしは季節的に居住したり,南極基地のように生活の本拠地が別のところにある場合にはエクメーネに含まれない。しかし場合によっては,居住空間だけでなく経済空間・交通空間をも加えてエクメーネと呼ぶこともある。その場合には,大洋の大部分さえエクメーネに加わる。技術の進歩や人口の増加によってエクメーネは拡大し,今日では人口がきわめて稀薄で無住地域が存在するのは両極の周辺地域・砂漠地域・熱帯湿潤地域や高山地域だけである。したがって,エクメーネの限界はおもに気候条件によって決定されるといえる。北極や南極に近い寒冷地域のエクメーネ境界を寒冷限界と呼ぶとすれば,サハラ・中央アジアやオーストラリア西部などの乾燥地域の周辺には乾燥限界が存在し,熱帯森林地域の周辺には温熱限界が存在すると考えることができる。高山地域における高距限界は緯度によって異なり,南アメリカの低緯度地方では海抜5,000m以上にも集落がみられる。ラッチェルは気候の人間に与える影響を直接的影響と間接的影響とに区分している。前者は寒冷・温熱・飲料水不足など人間の肉体に直接影響を及ぼし,居住を不可能にするものであり,後者は人間の居住に必要な衣食住資源が得られないため定住生活を営むことのできない場合である。人間の居住にとってより重要なのは後者であり,劣悪な気候条件のもとでも食物が得られるところでは原始的な生活が営まれている。ラッチェルやクレープスの研究によると,白人の新大陸発見以前においても,エクメーネは驚くほどのひろがりをもっていた。各大陸の氷結部分以外は,少なくとも散在的には人間が居住しており,エクメーネが拡大したのはそれより以前の古い時代であった。新大陸発見時代以後に人間の居住地域が拡大したのは,スバルバル諸島・バミューダ島・フォークランド諸島・モーリシャス島など大洋の諸島に限られており,グリーンランド沿岸・ヨーロッパのアルプス山地・カリフォルニア半島の大部分・オーストラリアや北アフリカの砂漠地域などでは,気候の変化や生活形態の変化によってエクメーネの後退した地域もみられる。しかしながら,今日では科学技術の発達によって一時的居住地域は拡大し,経済空間も著しく拡大して,エクメーネの境界地帯も不明瞭なものとなっている。エクメーネの境界線とその変化だけを論ずるよりも,世界各地域の人口密度や可容人ロ・適度人口などについて考察するほうがより重要であると考えられる。