●英雄時代 えいゆうじだい
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英雄とは神と人間のあいだに生まれた半神。ヘラクレスのように父親が神であることも,アキレウスのように母親が神であることもある。神に近い能力をもつが,死すべき運命にある。彼らの活躍する舞台はおもに神話や民族叙事詩であり,英雄時代とは神話や叙事詩の形式で伝えられた青銅器時代後期ごろの時代を意味する。いわば歴史時代の黎明期にあたる。【英雄】英雄の観念はもともと偉大な死者に対する崇拝に根ざし,超人的能力や運命をもった死者を墓前で祀る儀式から来ている。医術を創始したアスクレピオス,物語上の人物ヘレネ,テルモピレを死守した歴史上の人物スパルタのレオニダス王,神格にまで成長するヘラクレスなどさまざまなタイプと時代の英雄がいる。英雄や英雄崇拝はいつの時代にも生まれうる。戦時のように英雄を生みやすい時代もあり,英雄時代と呼ばれることもある。しかし,歴史的概念としての英雄時代はその種のものではない。
【ヘシオドスの英雄時代】『仕事と日々』のなかの〈五つの時代〉によると,英雄時代は黄金の時代,白銀の時代,青銅の時代につぐ時代であり,ヘシオドスの生きた鉄の時代の前にきている。この時代観は一種の終末思想で下降傾向を示しているが,英雄時代のみは再上昇している。〈正義と侠気で他に優れ,半神たちと呼ばれ〉,現世では〈豊かに家畜を飼う地の上に〉住み,死後も〈心に憂いの雲もなく〉〈至福な者たちの島に住んでいる〉。これはホメロスの英雄時代に対するヘシオドスの評価であるが、ヘシオドス自身は五つの時代を黙示的に示すのみで時代的転換の論理は示していない。
【ホメロスの英雄時代】ホメロス叙事詩,とくに『イリアス』では人々は集団で行動しているが,その活動は王(バシリウス)たる英雄の行動として叙述されている。戦功や名誉も王一身に集中し,これを支える家臣は影のように扈従している。しかし,実際には王には友人としての貴族たち,民会で発言をする兵士たちがいて,彼らは自由なクレーロス保有農である。この集団が一体となり一個の人格と化して生き生きとした英雄像とその活動を生み出している。それゆえ,叙事詩の世界は人格化された共同体の物語や歴史として読むことができる。また,そのようなものとしてかろうじてとらえられる時代が英雄時代であるともいえる。シュメール・インド・イスラエル・ゲルマンなどの民族叙事詩についても事情は同様であろう。
【ミケーネ文書の英雄時代】現実のミケーネ社会は貴族制期のホメロスが伝えたそれとは若干異なっている。王はアナクスであり,傘下の村落の王たるバシリウスではなかった。王は軍事指揮者たるラワゲタスやテレスタスとともに共同体から与えられた切り取り地テメノスによって生活し,多数の奴隷をもち,さらに支配下の多数の村落から貢納を得た。領土は古典期のポリスよりも広く,支配は十数村落から数十村落に及んた。村落には王の任命した各種の役人が存在するが,これが王の派遣し任命したものか,既存の村落機構の上層部を追認したものか不明である。王の支配がどの程度まで村落内の土地や民衆に及んだかも不明である。土地には私有の開墾地クティメナと公有地ケケメナの区別があり,後者には一定の義務が伴い,一般的には農民はホメロスの自由なクレーロス保有農よりも厳しい共同体規制のなかにあった。かかる貢納王政はホメロスの国家よりもオリエント型専制国家に近い。M.ウェーバーによれば,この城砦王政はやがてギリシアでは家臣団の政治的経済的上昇により貴族制ポリスに移行し,オリエントでは逆に家臣団の地位下落により官僚制を備えた専制的都市王政に移行するとされている。英雄時代はいわばそれぞれの可能性を含みながらも,ギリシア型国家とオリエント型国家とが分岐していく中間に位置していたといえる。
〔参考文献〕大田秀通『東地中海世界』世界歴史叢書,1977,岩波書店
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