●牛 うし
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ウシは,家畜のなかで今日最も広く世界に分布しているものの一つである。また最も古く家畜化された動物の一つでもある。【種類と分布】分類学上からいうと,ウシ属・ヤギュウ属・スイギュウ属が含まれるが,家畜となったのはウシとスイギュウである。家畜化された代表的なものは,原牛型あるいはヨーロッパ型といわれるものと,ゼブ型(牛)あるいはインド型といわれる二種である。原牛型のウシは温帯・寒帯に分布し,ゼブ型のものは熱帯から亜熱帯に分布している。ゼブ型のウシは,肩に肩峰というこぶをもち胸垂をもっているが,原牛型のウシにはこれらがない。ゼブ型のウシは耐暑性・抗病性にすぐれ,原牛型に比して熱帯への適応能力が大きい。ほかにこれらの近縁種で,家畜化されているものが3種ある。ヤク・ガヤール,またはミタン・バリウシである。ヤクは,チベットなどの高山地帯でウシの代用家畜とされている。ガヤールは野生のガウールが家畜化されたもので,ビルマやブータン,インドのアッサム地方などで多く飼われている。バリウシは,ガウールの近縁種であるバンテンが家畜化されたものでインドネシアのジャワ・バリなどで飼育されている。一方,スイギュウはインダス河谷の農耕文明のなかで,前2500年前後に家畜化されたと考えられている。ウシと同様の利用のされ方をし,ユーラシアの南部・南ヨーロッパから沖縄まで分布している。
【家畜化の起源と利用】原牛は,ユーラシア大陸およびアフリカ大陸に広く分布していた。約15000年前にクロマニオン人が,ラスコーの洞窟(南フランス)などに残した壁画は有名であるが,第3紀鮮新世の初めにはすでにいたようである。家畜化させたのは,定着農耕民であろうと考えられている。その年代や起源地について確定はできないものの家畜牛とみられる遺骨が,今日知られている最古の農村遺跡である前6000年ごろの,ジャルモ遺跡(イラク)から出土している。また前5000年ごろのオリエントの遺跡からも骨が出土している。家畜化されたゼブ型のウシは,前4500年ころのメソポタミアの遺跡にみられるものが,最も古いものである。その起源については,原牛から分かれたものであるとする家畜牛一元説と,原牛とは異なった野生牛を祖先に想定する二元説とがあるが,現在のところ一元説が有力である。家畜化の動機に関してはハーンの宗教起源説が有名であるが,今日では肉を食用にすることを動機とする説のほうが有力である。ウシは,食用・乳用・役用などに利用されているが,農耕との関係を考える場合には,役用としての利用が重要である。犂の発明は農耕文明を発展させるのに重要な役割を演じたが,これは前5000〜前4000年ごろ西アジアの農耕民が発明し,のち東西にひろがった。また車の発明によって牛車が登場し,作物の運搬や交易を発展させた。東南アジアや中国南部の水田稲作地帯では,スイギュウがこの役割を担っている。牛は世界の農耕民のあいだで崇拝の対象となってきた。それらは多くウシを多産豊饒の神とする思想にもとづくもので,月の崇拝を伴った儀礼・伝承などが広くみられる。一方,牛の牧畜はモンゴルから中央アジアにかけてのステップ地帯,ヨーロッパのアルプス地方,東アフリカのサバンナ地域などでみられる。牧畜にとって乳や血液の利用が重要であり,ともに食料として大切なものである。牧畜民は,畜群の管理や乳の利用などに関して種々の技術を発達させてきた。乳を原料としてバター・チーズなどの保存食や,酒なども作られる。皮や骨・角などは,農耕民・牧畜民を問わず利用されるし,糞は肥料として,また乾燥地での燃料・壁土としても利用されている。
〔参考文献〕ゾイナー『家畜の歴史』1983,法政大学出版局
加茂儀一『家畜文化史』1973,法政大出版局
野澤謙,西田隆雄『家畜と人間』1981,出光書店