50音順    検 索

●ヴェーダ

ヨーロッパ フランス共和国 AD 

 ヴェーダとは“知る”というサンスクリット語の動詞の語根から派生した名詞で,“知識”を意味するが,とくに宗教的知識を意味し,さらにその知識を載せた宗教的文献の意に用いられたもので,バラモン教の聖典の総称である。厖大なヴェーダ文献の基礎をなすのは祭式に用いられる讃歌・歌咏・祭詞・呪詞などマントラと呼ばれるものを集録したサンヒター(本集)で,祭官の管掌する職分に応じ,4種に分かれている。諸神を祭壇に勧請して讃称するホートリ祭官に属する『リグ=ヴェーダ』を中心とし,大部分は『リグ=ヴェーダ」の詩節を採録しつつ,旋律にのせて歌咏するウドガートリ祭官に属する『サーマ=ヴェーダ』,祭祀の実務を掌るアドヴァリュ祭官に属する『ヤジュル=ヴェーダ』,攘災・増福・調伏などの呪法を掌るブラフマン祭官に属する『アタルヴァ=ヴェーダ』を合わせて四ヴェーダという。四ヴェーダ本集にはおのおのその讃歌・祭詞の意義・用法を説明した散文のブラーフマナという神学的文献が付属し,このブラーフマナを補足し,とくに森林において伝授される秘義・秘法を含むアーラヌヤカ(森林書),その内容をさらに発展させて秘密の奥義を述べ,梵我一如の哲理を説く哲学的文献ウパニシャッド(奥義書)が付随している。サンヒターを初めとするこれらの知識は,聖仙が神秘的霊感によって感得した神の啓示によるものとして,これをシュルティ(天啓)と呼ぶが,これに対し祭式の施行に必要なヴエーダーンガ(ヴェーダ支分)と呼ばれる実務的知識は,師伝口授によるものとしてスムリティ(聖伝)と呼ばれる。ヴェーダーンガはヴェーダの祭式に関係のある各種の学術研究で,ヴェーダ聖典の補助文献として,音韻(シクシャー)・祭式(カルパ)・文法(ヴィヤーカラナ)・語源(ニルクタ)・韻律(チャンダス)・天文(ジョーティシャ)の6種からなり,もっぱらヴェーダ本典を正しく読誦・理解し,儀式を正確に行い,祭式の適当な時期を知るなどのための学習課日をいうのであって,特殊なスートラと呼ぶきわめて簡潔な短句で綴られ,記憶に便ならんことを期している。そのうち宗教上最も重要なのはカルパ=スートラで,大小祭事の施行法・四姓の義務などを説くもので,次の4種に分かれている。[1]シュラウタ=スートラ(天啓経)は,ブラーフマナに説かれているシュラウタ祭式すなわちアグニ=ホートラ(焼灌祭)・新月および満月の祭・季節の祭・犠牲獣の祭・ツーマ祭など2個の祭火を用いる大規模な祭式に必要な要項を述べている。[2]グリヒヤ=スートラ(家庭経)は,1個の祭火を用いる家庭日常の祭事を説くもので,[3]シュルヴァ=スートラ(祭壇経)は,祭火・祭壇・祭場などの設置に関する規矩を教えるもので,祭場・祭壇などの測量を説く部分は,幾何学の発達史上注目に値する。[4]ダルマ=スートラ(律法経)は,社会を構成する4階級(ヴァルナ=四姓)の義務・権利・生活法を規定し,社会的・宗教的法規を説くもので,のちに発達したダルマ=シャーストラ(法典)の先駆をなすものである。ヴェーダの伝承は多数の学派(シャーカー)の分立によって複雑化し,中心をなしているサンヒターにおいても,すでに学派によって異本を生し,祭式に関する見解や規定の相違は多数のブラーフマナを生み,さらに細目の差異に応じて多くのスートラ学派が生まれ,文献の量は著しく増大したが,散扶したものも多く,現代に伝わるものはそのすべてではない。

【年代】ヴェーダの主要文献の成立年代は明らかでないが,最古の『リグ=ヴェーダ』の成立は前1000年ごろを中心とした数百年にわたるものと考えられ,他の主要部分も前500年ごろまでに成立し,各種スートラ文献は前600年ごろから前2世紀ごろと推定される。

【言語】四ヴェーダ本集およびブラーフマナの言語はサンスクリット語の古層をなしてヴェーダ語と呼ばれ,アーラヌヤカ以下はしだいに古典サンスクリット語に近づいている。ヴェーダ文献はもっぱら口授によって伝えられ,これを文字に写すことは後世になってからであるが,正確な口授による伝承法は現代まで伝えられている。

〔参考文献〕辻直四郎訳『リグ=ヴェーダ讃歌』1970,岩波文庫

辻直四郎訳『アタルヴァ=ヴェーダ讃歌』1979,岩波文庫