50音順    検 索

●インド=ヨーロッパ語族 インド=ヨーロッパごぞく

AD 

 歴史時代の初めにインドからヨーロッパのほぼ全域にひろがり,現在,話し手人口と分布領域において世界最大の語族。現代語だけでなく,古い文献を伝える数多くの言語を含み,以下に挙げる大小11の語派に分けられる。

インド・イラン語派】前2000年紀に,イラン高原からインダス河流域にまでひろがった一派。古代インド語はヴェーダとサンスクリットに代表され,イラン語はゾロアスター教の聖典言語アヴェスタ,および古代ペルシア語を古層とする。ヒンディー語をはじめとする近代インド・アーリア諸語,およびペルシア語を含む近代イラン諸方言は,これら古代語を元としている。

アルメニア語】現在のアルメニア共和国,およびトルコや中近東各地に離散したアルメニア人の言語で,紀元4〜5世紀以降の文献を有する。

【トカラ語】中国領トルケスタンのクチャおよびトゥルファンから発見された,7〜8世紀ころの仏教関係の文献によって知られる。地域によってA,B二つの方言が識別されている。

アナトリア語派】前3000年紀の後半,小アジアに移住した最古の印欧語族の一派。前17〜12世紀の楔形文字資料で知られるヒッタイト語ルウィー語パラー語,前10〜8世紀の象形文字ルウィー語,前5〜4世紀のアルファベット記録を残すリュキア語・リュディア語などがこれに属する。

【ギリシア語】前14〜13世紀のミノア文字文書によって知られるミュケナイ・ギリシア語を最古層とし,以後ホメロスを始めとする豊富な文献を伝える古典ギリシア語,ビザンティン帝国の中世ギリシア語,そして現代ギリシア語にいたるまで,3000年あまりの長い歴史を有する。

アルバニア語】現在のアルバニア共和国の公用語。文証の時代は新しいが,古代のバルカン印欧語の唯一の生き残りとみられる。

【イタリック語派】前2000年紀の末ごろアペニン半島に移住した一派。そのなかの一方言ラテン語は,ローマ帝国の言語として,ライン・ドナウ両河以南の西ヨーロッパの全域にひろがった。これから分化したのが現在の「ロマンス諸語」,すなわちポルトガル・スペイン・フランス・イタリア・ルーマニアなどの諸言語である。

ケルト語】古くは中部ヨーロッパに広く分布したが,ラテン語とゲルマン語に圧迫され大陸では完全に消滅した。ブリテン諸島にアイルランド語,スコットランド高地とマンクス島のゲール語・ウェールズ語,5〜6世紀フランスのブルターニュへ逃れたブリタニア人のブルトン語がかろうじて残存するにすぎない。

ゲルマン語】4世紀の聖書の翻訳で知られるゴート語が,最古のそしてほとんど唯一の「東ゲルマン語」である。デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・アイスランドの諸語が「北ゲルマン語」群を形作り,英語・フリージア語・オランダ語・フラマン語・ドイツ語が「西ゲルマン語」に属する。ドイツ語は,北ドイツの「低地ドイツ語」と,オーストリアと南・中部ドイツを含む「高地ドイツ語」に分かれ,現代,標準ドイツ語は後者を母胎とする。

バルト語派】現在のリトアニア及びラトヴィア語がこれに属する。文献記録は16世紀以降であるが,とくに前者は,ヨーロッパで最も古風な印欧語の一つとされる。

スラヴ語】西・東・南の3群に分かれ,9世紀以降の文献を有する。ポラビア・ポーランド・チェコ・スロヴァキアの諸語が「西スラヴ語」,スロヴェニア・セルボ=クロアチア・ブルガリア語が「南スラヴ語」,ロシア・ウクライナ・白ロシア語が「東スラヴ語」に属する。

【印欧語民族とその原住地】以上の諸言語は,同じ一つの共通語すなわち「印欧祖語」から分岐発達したものと推定されるが,この言語がいつどこで話されていたか正確なところは不明である。最近の有力な説によれば,前5000年〜前4000年紀に南ロシアを中心に栄えた,クルガン(古墳)文化の所有者がこの民族であったらしい。

〔参考文献〕高津春繁『印欧語比較文法』1954,岩波書店

W.B.ロックウッド,永野芳郎訳『比較言語学入門』1976,大修館