●犬の歴史 いぬのれきし
AD
今日人間に飼われているイヌの数はおびただしいものであろう。数でなくその種類でもどれくらいあるのかちょっとわからない。なぜなら人間に飼われているイヌは,人間の必要によってつねに新しい種類がつくり出されているからである。セントバーナードのような大きなイヌがいるかと思うと,その頭にも及ばないほど小型のチワワーのようなのがいる。チンやブルドックのような短吻の面白い顔をしたのもいれば,ボルゾイのような長い顔をしたのもいる。ダックスフンドのような短足胴長のイヌもいれば,グレイハウンドのような脚の長いのもいる。立ち耳がいるかと思うと耳垂れがいるし,長毛で寒さに強いのもあれば,短毛で暑さに強いのもいるというふうに千差万別である。これが野生の動物であったら誰も同一の種だなどと思わないに違いない。それほどイヌの仲間は人間によって変化させられており,今日もなお,いろいろのイヌがつくり出されているからイヌの種類となるとわからないのである。しかしイヌが体型その他にどんな変化が生じていようともイヌという種であることは間違いなく,キツネでもオオカミでもないのである。【イヌの出現】イヌという動物がいつごろ地球上に出現したかははっきりしないが,大体人類が出現する前後であろうと推測されている。シベリアのボルガ地方から旧石器時代のイヌの化石が発掘されているが,これが世界最古のイヌの化石とされ,今日のライカ犬の祖先だろうといわれている。次に中石器時代に入りフランスのマグレモーゼ沼の古代人遺跡から,また新石器時代にはデンマークの貝塚やスイスの湖上生活遺跡などからたくさんの古代犬の化石が発掘されているところから考えると,すでにこのころはもうイヌは人間の家畜になっていたのだろう。このころのイヌはみんな小型で肩高40cmくらいだった。人類の歴史が青銅器時代から鉄器時代に入って初めて大きなイヌの骨がみつかっている。日本では新石器時代の貝塚や洞窟などから縄文式土器とともにイヌの化石が出ているが,これが日本犬のルーツだろう。やはり小型が多く,大きいものでも肩高50cmから55cmである。今日人間が飼っている家畜のほとんどは人間が野生の鳥獣を捕らえてきて自分らに役立たせるために一方的に飼育し,飼い慣らしたものだが,イヌとネコだけは別で,向こうから人間に近づいて来たものである。原野にはイヌ・ネコの恐ろしい敵であるライオンだの,ハイエナ・オオカミといったものが多く,人間のそばにいれば安心だった。一方人間の方からいえばイヌは警戒心が強く,怪しい者が近づけば吠えて知らせるし,狩りの協力もする。ネコは食物を荒らすネズミなどを捕えるのでそばにいれば便利だった。つまり両者は“共生”の形で近づいた。とはいってもイヌとネコとの近づきかたには違いがある。ネコは人間のそばにいるのが自分に都合がよかったからで,リーダーを必要としないネコ仲間の習性を守って生きようとするから,人間は単に共生の仲間にすぎなかった。イヌは群れをつくり,リーダーをいただき,その命令に従う習性をもっているから人間を自分らのリーダーに置き換えた。そこで人間の生活のなかに溶け込んで,人間の良き友達,忠実なしもべとなったのである。イヌはジャッカルやオオカミが進化してなったものだとするのは誤りで,ちょうど人間がサルから進化したというのと同じである。イヌ属の仲間はイヌ亜属とジャッカル亜属・コヨーテ亜属・リカオン亜属に分けられるが,イヌに最も近い仲間イヌ亜属をみるとイヌ・オオカミ・ヌクテなどがある。今日のイヌはオオカミやジャッカルと祖先をともにし,枝分かれしたもので,寒帯性のオオカミの血は北方犬に多く,熱帯性のジャッカルの血は主として南方系のイヌに見られるといわれる。立耳,赤茶けた毛色というのが原始系のイヌ本来の姿で,垂耳,白毛交りのイヌというのは人間に飼われ家畜化してからのものである。シーボルトは明治以前の日本犬はこの原始系に属するといっている。