●イニシエーション
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入社式または加入礼とも呼ばれる。成人の年齢に達した男子(女子)の男子結社・秘密結社・若者組・婚組などへの集団的加入礼をいう。こうしたイニシエーションは多くの場合秘密的に行われる。これに対して,成人に達した男女が,個人的・家族的に行う祝い事は“成熟祝”と呼ばれ区別される。入社式と成熟祝の二つをまとめて“成年式”と呼んでいる。イニシエーションは通過儀礼の一つであるが,古典的名著『通過儀礼』を書いたファン=ヘネップは,入社式を非性的な世界からの分離の儀礼であり,男女いずれかの性に属する人間だけでつくられた集団への編入の儀礼だと述べている。伝統的な種族社会で一般にみられる入社式では,男子をこれまで属していた女と子供の世界から切り離し,一定の期間彼らを物理的に隔離することが多い。この場合,若者たちが一度死んで再び新しく生まれかわること,つまり“死と再生”という観念に結びついた一連の象徴的儀礼をしばしば伴っている。また,隔離期間には,その種族の祖先や年長者に対する尊敬・服従が教え込まれ,一人前の成人男子として苦難に耐える能力を示す精神的・肉体的な試練を受ける。女と子供の世界は,無責任と愛情と幸福の支配する俗的世界であり,これに対して成人男子の結成する結社の世界は聖なる高位の世界であるとされる。したがって,俗界から聖界への移行は,死を象徴するような決定的な方法で絶縁される必要があった。新加入の男子はいったん象徴的に死に,やがて聖への参加が可能な新しい生命を手に入れた成人として再生してくるという考え方である。これらの過程で,身体変工と呼ばれる抜歯・文身・割礼などが若者に施されるが,これは“社会的切断”と呼ばれる儀式で,加入礼を受けている若者を,彼の親や親族との依存的紐帯から社会の手で切断することを象徴するものである。また,身体変工は,若者を一人前の自立的人間たらしめ,同じ時期に施術を経験したほかの若者たちとの連帯感を強化し,同じ種族の成員としての責任の自覚を促す目的をもっている。アフリカはコンゴのババリ族のマムベラと呼ばれる入社式では,割礼は行われないが文身の儀礼がある。この儀礼のあいだ中始祖の声として唸り木が振りまわされる。マムベラの入社式には友好関係にあるほかの氏族も招待されるが,同じ入社式に参与することによって,おたがいの連帯を強めるのである。成年式は踊りで始まり太鼓が響きわたると,女たちは逃げるように村を立ち去り森へ行くが,真夜中に連れ戻される。翌朝,踊りはつづけられ,男たちは森からしなやかな樹の枝をもってくる。この枝で入社式に参加している若者を突然殴るのである。ほかの男たちは,殴られた少年たちを樹皮製の新しい褌でつつみ,体に油をすりこむ。殴ることは殺すことを,油を塗るのは再生の儀式を示しているものと考えられる。西アフリカのズル族では,少年は“新生”するものとして祝福され,いったん別の小屋へ隔離されたのち,名前を改めて,現れる。またリベリアのクペル族では,イニシエーションを受ける若者たちは,ワニの霊によって飲み込まれ,一度は死んで霊界に入ったものとされ,“吐き戻しての儀礼”によってこの世に戻ってくる。若者たちは新しく名前をもらい,村へ帰ってきたとき,別人のごとく振る舞い親類の人々をも忘れたふりをするのである。わが国でも成年式の祝いをナガエ(名替え)という地方があった。山口県の見島では,このことをホンニンになるといい,京都付近でヨボシギと呼ばれる成年式でも幼名を改めている。また長崎県西彼杵郡では“絞め殺す”といって,首を絞めて一時気絶させる成年式行事があった。このように,イニシエーションは種々の儀礼や要素から形づくられているが,その中心は,再生を伴う儀礼的死であり,新加入者がこれまでの自己と訣別して,新しい人間に生まれかわることを象徴している。