50音順    検 索

●猗頓 いとん

AD 

 生没年不明。中国,春秋末から戦国初期にかけて活動した大手工業者。『史記』貨殖列伝によれば,河東の塩地(山西省解県の鹹水湖)で製塩を営んで巨利をあげ,その富は王者にも等しかったといわれている。塩池の北西に猗氏県があるので,このあたりの出身であろう。猗頓は戦国後期にはすでに半ば伝説的な存在となっていたらしく,『韓非子』などに陶朱公(范蠡)とともに大金持の代表として記されている。戦国時代,塩や鉄の生産によって巨富を積んだ企業家や投機を専門とする大商人が多数輩出し,「貨殖家」と呼ばれた。猗頓は前者の企業家の元祖といってもよい。彼が製塩を行った塩池は中国内陸部では数少ない塩の産地であり,その点で戦略的に重要な意味をもっていた。当時の企業家のつねとして,猗頓も列国の君主と関係の深い一種の政商であったと考えられる。『孔叢子』は猗頓を牧蓄業者であったとするが,疑わしい。漢代にはすでに彼の具体的な事蹟は不明だったようである。