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●一夫多妻婚 いっぷたさいこん

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 婚姻は一般に複数の配偶者を同時にもてることを社会的に承認されている複婚と一人の配偶者しかもてない単婚とに分類される。一夫多妻婚は,一妻多夫婚とともに複婚の一形態であり,一人の男性が一度に二人以上の女性と結婚できる婚姻形態である(ただし,姉が結婚すると同時にその弟も姉の夫と同棲して,姉の夫と同性愛の関係に入るタイプの一時的な“一夫多妻婚”がニューギニアのエトロ族から報告されている)。アメリカの文化人類学者のマードックは,『社会構造』において195の諸社会を統計学的に分析し,その諸社会のうち単婚を理想とする社会は18%(43例),一妻多夫婚社会は1%(2例)にすぎないのに対し,一夫多妻婚に分類される社会は81%(193例)にもなると結論している。この場合,一夫多妻婚と分類される社会は,その社会の全男性が複数の妻をもつ社会であるということではない。一夫多妻婚とされる多くの社会でも,社会的・経済的・諸条件が大きく働いてきて,複数の妻をもてるのは,現実には,社会的地位の高い男性か,あるいは社会的に成功した男性に限られることが多いからである。したがって,一夫多妻婚社会と分類されても,一夫多妻婚より一夫一婦婚(単婚)の比率のほうが多いのがふつうである。しかし逆に,上記の分類で単婚とされる社会であっても,離婚や再婚の許されていない社会と,離婚も再婚も許されている社会とでは大きな違いがある。後者のタイプの単婚では,一生のあいだにいく人もの女性を妻にすることができるから,実質的に一夫多妻婚に近づくことになる。事実,このタイプの単婚は“逐次的一夫多妻婚”と呼ばれることがある。いかなる社会でも男性と女性の出生率がほぼ同じであるから,一夫多妻婚社会であっても,より公平な配偶者の分配原理である単婚と共存しやすいのは,ごく自然の成りゆきかもしれない。

【一夫多妻婚成立の要件】一夫多妻婚の成立要件はきわめて複雑であるが,一般には次のようなものがその要件としてあげられている。[1]生殖的理由。たとえば革命前の中国では,建前としては一夫一婦制(単婚)であったが,その妻に子どもができないとき,第2婦人を娶ることが許されていた。[2]経済的理由。女性が労働力として貴重な社会では,一夫多妻婚が労働力補充の問題と重複する傾向をもつ。つまり,配偶者を得ることにより労働力を確保することになる。ただし,男性が労働力の中心となるような社会でも一夫多妻婚は生じうる。アフリカには,妻の姉や妻の母親が未亡人となったとき,妻として迎えて面倒をみる事例がある。[3]男性と女性の人口の不均衡。たとえば戦争が常態であるような社会では,女性より男性の死亡率が高くなるのがふつうである。このような理由で男女の比率にアンバランスが生したとき,一夫多妻制は好都合な婚姻制度となる。[4]政治的理由。一夫多妻制は明らかにより広い社会的・政治的脈絡で考察されるべき問題である。オーストラリア北部の離島に住むティウィ族には,娘を婚約させる権利をもつ父親が,生まれる予定の,あるいは生まれたばかりの娘を,自分の利益になりそうな同世代の男性か将来有望と思われる青年に与える幼児婚の慣習がある。この慣習の結果,成人女性のほとんどが40歳以上の男性と結婚することになり,それより若い男性は(幼児と婚約している青年はあるにしろ)実質的に独身を強いられる。このシステムでは,妻の数が多いほど生まれる娘の数は多くなり,そのため忠誠を尽くしてくれる義理の息子と親族の数も増えることになる。これは一夫多妻制が長老支配の政治システムと結合している事例である。

〔参考文献〕中根千枝『家族を中心とした人間関係』1977,講談社学術文庫

G.P.マードック,内藤莞爾監訳『社会構造』1978,新泉社

R.メイアー,土橋文子訳『婚姻』1979,法政大学出版局