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●一妻多夫婚 いっさいたふこん

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 一妻多夫婚は一夫多妻婚とともに複婚のサブ=タイプであり,一人の女性が同時に複数の男性を夫にもつことを社会的に認められた婚姻形態のことである。それは文化人類学的には古くから論じられてきた興味深いテーマであるが,ヒマラヤに住む若干の諸部族,南インドのトダ族,ポリネシアのマルケサス島民などから,ごくまれに報告されているにすぎない。

【一妻多夫婚の特徴】いかなる一妻多夫婚社会でも,一妻多夫婚だけが行われている社会はありえず,ほかの1種類以上の婚姻形態と同一社会内に共存する。いい換えれば,一妻多夫婚と分類されるような社会であっても,その社会内のメンバーのほとんどが,現実には単婚(一夫一婦婚)の状態で生活していたり,一夫多妻婚と共存したりしている。また,たとえ一妻多夫を理想としていたとしても,最初から一度に複数の男性を夫にもつとは限らないであろうし,年老いて夫が死ぬこともあるから,個人の一生をとりあげても,婚姻形態は変わりうる。したがって,その制度は社会の理念型として理解する必要がある。たとえばマルケサス諸島の場合,理念的な婚姻は一妻多夫であったが,現実には一夫多妻婚も行われていた。この島では食糧が乏しく飢饉になることがたびたびあった。そのためか女児殺し(嬰児殺し)の慣習をもち,その結果,一説には男性人口が女性人口の2倍半もあったという。そのため一人の妻と数人の夫よりなる一妻多夫婚家族がふつうであった。けれども,経済的に豊かな家の男性は,逆に数人の妻をもつことがあったのである。

兄弟型一妻多夫婚】もっともよくみられるタイプの一妻多夫婚は,互いに兄弟の間柄にある複数の男性が一人の女性を共通の妻とするものである。これは兄弟型一妻多夫婚と呼ばれる。兄弟型一妻多夫婚には,弟が自身の妻を得るまでの一時的方策として行われるものもあれば,兄弟が1人の妻と永続的に配偶するタイプのものもある。最もよく知られているのは南インドのトダ族であろう。トダ族では永続的な兄弟型一妻多夫婚が理想的な婚姻形態であった。一人の女性が一人の男性と結婚すると,少なくとも理屈のうえでは,彼の兄弟全員が彼女の夫になる。彼女が妊娠すると,兄弟のうちの1人が「弓の贈与」の儀式を行い,生まれてくる子どもの社会的に公認された父親となる。ほかの兄弟たちは副次的な意味でその子どもの父親である。このようにして,彼らは順次,その女性が次々に生む子供の父親の役割を受けもつ。

【一妻多夫婚成立の要件】一妻多夫婚は女児殺しの慣習の結果として生じる男女比の不均衡に由来するとしばしば考えられてきた。事実,マルケサス諸島やトダ族一妻多夫制は女児殺しの慣習と密接な関係があった。しかしそれを一般化することは困難である。実際,一妻多夫婚社会のなかには男性より女性の方が多い例もあるからである。チベットには,商用で長期間留守することの多い男性が自分の兄弟に妻を預けるタイプの一妻多夫婚や,財産の分割を防ぐために兄弟が一人の女性のみを共通の妻にするタイプの一妻多夫婚の報告がある。イギリスの社会人類学者であるリーチは,ことに後者のタイプの一妻多夫婚の意義を強調している。〈二人の兄弟が一人の妻を共有し,その結果その兄弟の相続人はその妻から生まれた子供になるならば,経済的観点からみた場合その婚姻はその兄弟の連帯を引き裂くというよりも強固にすることになろう〉(E.リーチ,1974)。このような観点から,彼はスリランカで非公式に認められている一妻多夫婚が財産権システムと一貫して結びついている事実を実証しようとした。

〔参考文献〕吉田貞吾『未開民族を探る』1965,社会思想社 現代教養文庫

E=リーチ,青木・井上訳『人類学再考』1974,思索社

中根千枝『家族を中心とした人間関係』1977,講談社学術文庫