●イスラエル王国 イスラエルおうこく
アジア イスラエル国 AD
イスラエルの民がパレスチナの地で王国を形成するにいたったのは前2000年紀の終わりであった。初代の王サウル(前1020〜前1000年ごろ)を継いだダビデ(前1000〜前961),ソロモン(前960〜前922)の時代にイスラエル王国の黄金期を迎える。しかしソロモンの死とともに国は北王国イスラエルと南王国ユダに分裂し,再び統一されることはなかった。肥沃な三日月地帯に位置する小国の運命は,古代オリエント世界の強国(とくにエジプトとメソポタミアの勢力)の力に翻弄されることはさけられず,北王国は前722年にアッシリアに滅ぼされて歴史から姿を消し,南工国は前586年にバビロニアによって滅ぼされることとなった。【宗教的部族連合から王国へ】元来砂漠的文化を背景にもつイスラエルの民はパレスチナに定着後も半遊牧的な部族社会を特徴としてもち,部族単位での自治を維持しながらヤーヴェ神の聖所を中心とした宗教連合の形をとっていたものと思われる。イスラエルという名称も,もとは民族名,部族名などではなく,12部族を統括する宗教的部族連合の名であったといわれる。外敵の来襲には剛勇の士が立ち上がり,人びとを指導してこれに当たる。彼らはいわゆるカリスマ的指導者であり,その成功は神の恩恵によって初めて可能になったと考えられたのである。危機が去れば表舞台から退く場合が多いが,なかにはその後も民事面での指導にあたる者もいた。旧約聖書では彼らは士師と呼ばれている。
イスラエルの諸部族が遭遇した最大の脅威は,地中海沿岸諸都市を根拠とする海の民ペリシテ人によるものであった。ついに彼らは宗教連合の象徴でもあった「神の箱」を奪い,中心聖所を破壊するにいたった。部族連合そのものの存亡の危機に直面してイスラエルの諸部族は,全イスラエルの兵力を結集し,団結してこの危機に対処せざるをえず,ここに王国の成立をみるにいたった。
【ダビデ・ソロモン】初代の王サウルが王国建設途上で挫折した後を継いだダビデは,北はダマスクスから南はアカバ湾にいたる地域を確保し,イェルサレムを王都に定めてイスラエル王国の礎を築いた。当時メソポタミア・シリア・エジプト等に割拠する諸国は新興国家イスラエルに干渉する余裕のなかったことが幸いした。ダビデのこの実績の上に,その子ソロモンは官僚制度を確立して国内を整備するかたわら,大規模な土木工事をもって国内各地の都市を強化し,フェニキアの技術を導入してイェルサレムに壮麗な神殿を建立して,ダビデの夢を果たした。また対外貿易にも意欲的であったことが知られている。ダビデ・ソロモンはともに約40年の長い期間統治したが,イスラエル王国の最盛期であった。とくにダビデは民族のその後の歴史において,つねに王の理想像となった。
【王国分裂】ソロモンの長い統治は経済的繁栄と国際的名声をもたらしたが,富の偏在はさけられず,租税や強制労働の重圧,政治の腐敗とともに,王国に内在する矛盾がソロモンの死とともに一気に噴出して,ついに南北の2国に分裂することになった。人口の点でも耕地面積においても北王国イスラエルは南王国をしのぎ,経済的にはるかに優位に立った。しかし多くの部族をかかえた北王国は,反ユダ感情によってまとまっているにすぎず,国内的にはきわめて不安定で,王位の簒奪はつねのことであった。ヤラベアム2世(前786〜前746)の長い治世に一時的に繁栄をみたが,モラルの退廃もその極に達し,預言者アモスの鋭く弾劾するところとなった。前722年にアッシリアに滅ぼされた。
南王国ユダ王国はユダとベニヤミンというダビデゆかりの2部族のみからなっている上に,地域的にも小規模で,神殿を中心に統一性に富んでいた。また名君も多く輩出している。北王国のヤラベアム2世と同時代にユダの王であったウジアも長く国を治め(前783〜前742),国の繁栄は絶頂に達した。やがてアッシリアの力が襲いかかったときには多大の犠牲を払いつつも,とにかく領土と民とを救うことができた。この国家的危機に活躍したのが預言者イザヤであった。その後の1世紀半の歴史は,東西2大勢力の盛衰に翻弄された小国の悲哀を描き出している。東の強国アッシリアの崩壊が西のエジプトの東進をゆるし,宗教改革を断行した名君ヨシアもその犠牲となり,アッシリアにかわる東のバビロニアはカルケミシでエジプトを破って西アジア全域を制覇した。このような状況にあって,武力に頼まず神に寄り頼めと主張する預言者エレミヤの言葉も空しく,右顧左眄する小国の政治はかえってバビロニアの徹底的な破壊と攻撃を招き,前586年のイェルサレム陥落とともに国家は滅びた。ここにイスラエル王国の命運はつきた。
〔参考文献〕M.メッガー,山我哲雄訳『古代イスラエル史』1983,新地書房
E.エールリッヒ,馬場嘉市・馬場恵二訳『イスラエル史』1962,日本基督教団出版部
関根正雄『イスラエル宗教文化史』1952,岩波書店