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●アナキズム

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 無政府主義。語源はギリシア語のアナルクヒア(無支配の意)に由来し,国家・社会・宗教などのすべての権力・権威を否定し,個人とその自然な集団の完全な自由を基礎とする理想社会を希求する思想。すなわち,国家とか政府とかいう何らかの権力の枠組みのなかで人間社会の秩序は維持できるという考え方に対し,真の自由で平等な社会は国家や政府を廃止し,権力による強制なしに個人の自由意志と自由合意にもとづく集団の連合の上にのみ成立すると主張する。こうした個性の自由・自主という考えに立ち,反権力・反国家を説く思想は,古くストア派のゼノンや中世の異端のなかにも認めることができ,無政府主義とは,広い意味ではこれらをも含めていうことがあるが,一般には,18世紀末の啓蒙思想のなかに生まれ,フランス革命の影響下に育った近代無政府主義をさす。その創始者とされるのは,イギリスの思想家W.ゴドウィン(1756〜1836)で,彼は1783年『政治的正義論』を著し,人間理性への全幅的信頼を基礎にして,人間形成と社会の発展を論じ,人間の進歩にとって政府や社会制度は不必要であるとした。ついで,フランスの社会主義者P.J.プルードン(1809〜65)は,「財産とは盗品なり」として,搾取と階級のない契約的社会の建設を唱え,アメリカのJ.ウォレン(1798〜1874)は,産業資本主義の侵入に対して個性の尊厳を説いた。こうした近代無政府主義は,その後いろいろな形で繰り広げられ,さまざまな主張となるので,それを系統づけることはむずかしい。しかし,その目的,すなわち,無政府社会を実現する手段を基礎として考えると,[1]実験・教育など平和的手段をとり,個人の自由に力点をおく個人主義的無政府主義,[2]暴力的手段も辞さないとする革命的無政府主義の二つに大別できよう。前者に属する者としては,ドイツのM.シュティルナー(1806〜56),アメリカのB.R.タッカー(1854〜1939),E.カーペンター(1844〜1929)などが有名。その他,キリスト教無政府主義を説いたロシアのL.N.トルストイ(1828〜1910),イギリスの劇作家で世紀末耽美派の創始者O.F.ワイルド(1856〜1900),アメリカの詩人で自然への回帰と徹底した個人主義を説いたD.ソロー(1817〜62)などの文学者・詩人などもこの個人主義的無政府主義者に含めることもできる。もう一方の革命的無政府主義者としては,社会主義思想の一派として現れたもので,集産主義的無政府主義を唱え,『神と国家』・『国家と無政府』を著し無政府主義を理論づけたロシアのM.A.バクーニン(1814〜76)や,相互扶助と連帯にもとづく自由連合を未来の理想社会と考え共産主義的無政府主義を説いたP.A.クロポトキン(1842〜1921),イタリアのE.マララスタ(1853〜1932)などがよく知られている。

 一般に狭い意味で無政府主義という場合には,これらの革命的無政府主義をさす。彼らは,マルクス主義が革命によるプロレタリア独裁を主張したのに対し,国家や政府の直接的消滅を考えた点において,唯物史観を肯定しない者として,根本的に科学的社会主義と対立した。

 革命的無政府主義運動は,19世紀後半の労働運動の勃興とともに,盛んに展開され,バクーニンらは1863年第1インターナショナルに参加したが,1872年除名された。その後,クロポトキンらの努力で国際無政府主義者大会が開催されるなど,革命的無政府主義者は活動したが,1889年に創設された第2インターナショナルは,マルクス主義に立ち,無政府主義を排除したため,しだいに影響力を失った。この派の一部が,サンディカリズムと結びついて成立したのがアナルコ=サンディカリスムで,これが今日の国際無政府主義の主流をなしている。

 なお,日本の無政府主義者は大体クロポトキン系統で,「大逆事件」で有名な幸徳秋水(1871〜1911)や,『平民新聞』を発刊した大杉栄(1885〜1923)らが,これに属する。