●アートマン
アジア インド AD
インド思想・宗教史における最重要の術語の一つ。呼吸を意味する動詞からの派生語で気息・生気・生気をもつ身体,としだいに発展し,ついには人間存在の自己の本質を意味するにいたった。通常,我(が)と訳される。一方,紀元前8〜6世紀のブラーフマナ文献に宇宙の本質はプラフマン(梵)としてとらえられ,ウパニシャッド文献(前500年を中心)ではこの両者は否応なしに一なるものと確信される。この梵我一如を宗教体験をもって“知る”ことが解脱である。ウパニシャッドではこの梵・我の内容がさまざまに論じられている。このアートマンはしだいに死後にも消滅しない実体と考えられ,これは当時に一般化した輪廻思想と合して,輪廻の主体ともなった。仏教はこの考え方を否定して無我説を説いた。以降,アートマンは多彩な内容をもりこみつつ,インド哲学の中心的概念として発展している。〔参考文献〕辻直四郎『インド文明の曙』岩波新書,1967,岩波書店
中村元『インド思想史』(2版)岩波全書,1968,岩波書店