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●アサパスカン諸族 アサパスカンしょぞく

北アメリカ アメリカ合衆国 AD 

 アサパスカン語族に属するアメリカ原住民族。[1]北アメリカにおけるインディアン諸語族のうちで最も広範囲に分布し,[2]生活様式の多様性が特徴である。

【分布と諸族】地理的・言語的に,[1]北方アサパスカン,[2]太平洋アサパスカン,[3]南方アサパスカンに分類することが可能である。この3区分はほかのインディアン諸語族により分断され,それぞれ地理的に隔離する。北方アサパスカンはさらに地理的に東部・北西部・南西部に分類できる。東部諸族はロッキー山脈の東からマッケンズィー河口,ハドソン湾に至るカナダ中央部に分布する。イエロー=ナイフ・ドッグリブ・ヘアー・スレーヴ・チペワイアン・ビーバーなどの諸族(方言集団)を含む。北西部諸族は内陸アラスカを中心に分布し,クチン・アーテナ・コータナなどを含む。南西部諸族はロッキー山脈西部,ユーコン川上流のカナダ領に分布し,ナハニ・セカニ・バビネ・キャリアー・チルコーティンなどを含む。太平洋アサパスカンはアメリカ合衆国のワシントン・オレゴン・カリフォルニア州の海岸部と内陸山脈部の渓谷に分布する。クワルヒオクワ・ウムプクア・タルトゥシュトゥントゥデ・トロワ・フパ・ホイルクート・マトーレ・スィンキュネなどの諸族を含む。南方アサパスカンはアメリカ合衆国のアリゾナ・ニュー=メキシコ州を中心に,ユタ州・コロラド州・カンサス州・テキサス州・メキシコ北部を含むアメリカ大陸南西部に分布する。ナヴァホアパッチなどの諸族を含む。

【文化】アサパスカン諸族はこの地理的分布のなかで多様な生活様式をもつ。北方アサパスカンは狩猟と漁労を生業とするが,アラスカの大河川流域においてはサケの漁労,カナダのロッキー山脈一帯においてはムース(オオジカ),野生のヤギなど大型獣の狩猟,カナダ北部マッケンズィー川流域からハドソン湾沿海にかけてのツンドラと森林地帯においてはカリブー(北米産野生トナカイ)の狩猟が生活の基盤になっている。太平洋アサパスカンは,サケの漁労,シカ・エルク(オオシカ)の狩猟,どんぐりなどの殻斗果やユリ科の球根の採集を生業とする。南方アサパスカンはトウモロコシの栽培,スペイン人によってもたらされた羊の牧畜を生業とする。北方アサパスカンの親族体系は双系的であり,社会組織は核家族とこれが双系的に結ばれて形成される集団が基本となる。集団は食糧資源の獲得のため季節的移住を行い,集団の構成は核家族を中心として離合集散がみられる。カリスマ的なリーダー=シッブを認めることができるが,社会の階層化はみられない。しかし,アラスカやカナダ西部の北方アサパスカン諸族においては,隣接するエスキモーや北西海岸インディアンからの社会組織・神話などの文化伝播がみられる。たとえば,ロッキー山脈のキャリアーにおいては,チムシャンなど北西海岸インディアンの特徴である。ポトラッチを伴う半族組織の形成がみられ,貴族・平民・奴隷という社会階層が認められる。南方アサパスカンにおいては,母系的親族体系をもち,隣接するプエブロの影響を受けた母系民族の形成がみられる。

 アサパスカン諸族の第1の特徴である相互に分断された広範囲に及ぶ地理的分布は,古い時期における北方からの移動と,その後のほかのアメリカ=インディアン諸語族による分断の結果と考えることができる。また第2の特徴である生活様式の多様性は異なる自然環境と,異なるインディアン諸族との接触による文化の変化と適応の結果であると考えることができる。