●アキレウス
ヨーロッパ ギリシャ共和国 AD
ギリシア神話の英雄。英雄ペレウスと海の女神テティスの子。テッサリアの部族の王としてトロヤ戦争に従軍した。彼の活躍がホメロスの叙事詩『イリアス』のライトモチーフである。注目すべきことに,ホメロスのアキレウスはアカイア文明圏のギリシア人には理解しがたい,異質の人物であった。たとえば,彼は親友パトロクロスの葬儀にトロヤの大将ヘクトールの遺骸を戦車で引き回したので,味方の人々すら眉をひそめた。もちろんだれひとりとして彼を押しとどめる人はいない。平素は感傷的で十分同情心もある彼が,腹を立てたときは神々をも容赦しないということを知っていたからである。彼は総大将アガメムノンと対等にふるまい,トロヤに出かけたのも自分の意志からであった。トロヤに到着すると,一連の合戦で多くの町を攻略し,美少女ブリセイスを得た。アガメムノンに迫って,奴隷クリュセイスを父親に返させるが,その埋め合わせにブリセイスを奪われる。侮辱されたアキレウスは以後戦いに出ない。テティスがゼウスに働きかけ,ギリシア軍は敗北して危機に立つ。和解のためアガメムノンが申し出たすばらしい品物には目もくれなかったアキレウスも,自分の武具を貸してやったパトロクロスがヘクトールに討たれたことを聞くや早速アガメムノンと和解し,戦場に立つ。その後,ヘクトールの死,死者に対する異常なふるまい,老王プリアモスへの遺骸の引き渡しがつづく。『イリアス』はアキレウスの死を予告しているが,描写していない。『オデュッセイア』には彼の遺骸をめぐる戦闘・葬儀・テティスの嘆きが描かれている。後世の詩や散文がさらに多くのことを語ってくれる。テティスは幼児を不死身にするため幽界の川ステュクスの水に浸したが,踝を握っていたためそこが唯一の弱点となった。いわゆる“アキレス腱”の由来である。また,息子がトロヤで死ぬ運命にあることを知った両親は彼に女装させてスキュロス島に隠したが,オデュッセウスの機知によって捜し出された。トロヤでアマゾンの女王ペンテシレアを殺した。その直後,パリスあるいはアポロン自身の弓が踝を射てアキレウスは倒れたのである。これらはおそらく今は失われたテッサリアの古い伝説を伝えているものと思われる。